塚本予報士のウラナミ『サンゴが雲を作る…⁉』

塚本予報士

塚本予報士
東京都民でしたが、大学4年間を沖縄で過ごして心はすっかり「うちなんちゅ」に。野球と海が大好きな元高校球児・現ダイバーです! (サーフィンは経験ゼロです…これからはサーフィンにも挑戦したいなぁと思ってます…!)

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比較的暖かかった11月から一変、さすがに12月は寒い日が続きますね…
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

少し前の話ですが、10月中旬にイギリスの科学誌「Molecular Biology and Evolution」に、とあるおもしろい論文が掲載されました。

タイトルは
『Eighteen coral genomes reveal the evolutionary origin of Acropora strategies to accommodate environmental changes』

和訳すると
『18種のサンゴのゲノムが明らかにした、ミドリイシ属サンゴの祖先の環境適応戦略』
といった感じでしょうか。

……。

…ちょっとよくわからないので、少し噛み砕いてみましょう笑

『18種類のサンゴの遺伝情報(設計図)を調べたら、ミドリイシ属サンゴの祖先の、環境変化への適応のしくみがわかったかもしれない…!』
なるほど、そういうことを言っていたのですね。

※ゲノムとは、「DNAに含まれるすべての遺伝情報」のことを指します。
いまいちピンとこない方は、「生き物が生きていくための設計図すべて」と考えていただければと思います。

※ミドリイシ属サンゴとは、↓↓のようなサンゴです。
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この論文では、

◆18種類のサンゴのゲノム(遺伝情報)を調べた
◆ミドリイシ属の祖先は現在よりも温暖な白亜紀に登場し、気候が涼しくなるにつれて種数を増やしたことが示唆された
◆ミドリイシ属のゲノムだけに見られる最も顕著な特徴として、雲を作るのに重要な遺伝子があることがわかった

という内容が紹介されています。

 

『雲を作るのに重要な遺伝子』がある…?

もちろん、サンゴがもくもくと雲を作っているわけではありません。
『雲を作る手助けをする物質』を作り出す装置の設計図が見つかったのだそうです。

うーん、わかったような、わからないような…。

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そもそも「雲」とは何かというと、空中に存在する微小な水や氷の粒の集まりのことです。
この粒は単に水蒸気があるだけでは形成されにくく、一般的に「エアロゾル(エーロゾル)」と呼ばれる「核」になる微小な物質が必要となります。

気象の世界では「凝結核」などと表現します。

「なんで『凝結核』が必要なの?」
と思う方もいらっしゃると思いますが、理由を説明すると少し難しい話になります。
このウラナミを誰も読んでくれなくなりそうなので、ここでの説明は割愛します笑

ここでは簡単に「雲ができるには『水蒸気』がある状態で、『凝結核』の手助けが必要なんだな」と考えていただければと思います。

さて、それでは「『雲を作る手助けをする物質』 を作り出す装置」とはいったい何でしょうか。

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※画像はイメージです笑

この装置とは、「DMSPリアーゼ」という酵素です。
(「酵素」は「装置」と考えていただいて問題ないと思います。)

「DMSPリアーゼ」は、「DMSP」という物質から「硫化ジメチル」を作り出します。
この「硫化ジメチル」は、海から空へ放出されると「硫酸エアロゾル」になります。

「硫酸エアロゾル」は凝結核となり、雲を作る手助けをすることが知られています。

参考図

ちなみに、「硫化ジメチル」は磯の香りの正体だそうです。

今回はミドリイシ属のゲノム内に「DMSPリアーゼ」の設計図があったことがわかり、ミドリイシ属の「雲を作り出す可能性」が示された、とのことです。

なお、現段階では実際にサンゴの「DMSPリアーゼ」が「硫化ジメチル」を作っているかはまだ解明されおらず、あくまで「雲を作り出す可能性を秘めていることがわかった」段階のようです。

 

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論文では、ミドリイシ属の祖先は恐竜が生息していた時代(白亜紀)から出現していた可能性がある、と発表されています。

この年代は温暖・湿潤な気候であったと言われており、海水温も低緯度地域で32℃ほど、高緯度地域で26℃ほどと高い温度で安定していたそうです。

ミドリイシ属の祖先は、雲を作り出すことで日陰を作り出し、現在よりも暖かい年代を生き延びてきたのではないか、と注目されています。

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まだわかっていないことも多いようなので、今後の研究に注目ですね。

 

ちなみにこの論文の発表者は、東京大学や沖縄科学技術大学院大学(OIST)の日本人の先生です。
東京大学やOISTのホームページでは日本語で紹介されているので、詳しく知りたい方は読んでみてください。

東大→https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2020/20201015.html
OIST→https://www.oist.jp/sites/default/files/img/20201015-Joint-PressRelease-MolecularBiologyandEvolution.pdf

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