
こんにちは、ナッカルビです。
昔、自作PCにハマっていた頃、「水冷式」のパソコンに妙な憧れがありました。透明なチューブを流れる冷却液……なんだか未来の機械みたいでワクワクしたものです。最近のゲーミングPCでは「水冷式」も普通に見かけるようになり、中身の見えるPCケースや光るパーツなどを使い、映えを強く意識したものに進化しています。
そんな“冷やし方の進化”は、ITインフラの根幹であるデータセンターの世界でも起きています。熱を持ちやすいサーバーをどう冷やすかは、実はとても重要なテーマ。その進化の最終形の一つとして、「海そのものを使って冷やす」という発想が生まれました。
つまり、「じゃあ、海の底にサーバー沈めちゃえばよくない?」という話。今回はそんなロマンあふれる実験を、皆さんと一緒にのぞいてみたいと思います。

海の底で静かに働くサーバーたち
Microsoft が行った「Project Natick」は、海の底でサーバーを動かすという大胆な実験です。大きな金属のカプセルにサーバーをギュッと詰めて、そのままスコットランド沖の海底に沈めてしまうというもの。
しかも中は無人。人が出入りしない、静かで安定した環境を作ってあげることで、サーバーが壊れにくくなるのでは? という狙いでした。
冷却方法はシンプルで、サーバーが出した熱を熱交換器を介して海水側へ逃がす仕組みになっています。内部で温まった熱が、外の冷たい海水へじわじわ流れていくイメージです。陸上のような大規模空調が不要になるという点も大きな特徴です。
やっぱり“海は偉大”だった
実験結果は、サーバーの故障率が「陸上の1/8」になるという研究者にとっても驚くべきものでした。これは、サーバーが苦手とする“熱”、“振動”、“湿度変化”、“粉塵”といったトラブル要因が、ほぼ取り除かれていたからだと考えられています。
- 海水が自然の“クーラー”となり、温度変化が少なく安定して稼働できる
- カプセル内は密閉され、窒素で満たされていて、粉塵なし・湿度も低く安定
- 人が出入りしないため振動や物理事故、メンテミスも起きない
つまり、海の底はサーバーにとって“とても居心地がいい場所”だったのです。
参考:マイクロソフト、海底データセンターの信頼性、実用性、エネルギー消費の持続可能性を実証
それでも“当たり前”にはなっていない理由
では、「じゃあ全部海底に沈めればいいじゃん!」と思いますよね。ところがそう簡単にはいきません。
- 壊れた時の回収が大変
- 海の環境への影響を慎重に調べる必要がある
- 設置には法律や漁業との調整が必要
こうしたハードルがある一方で、中国ではすでに商用の海中データセンターが動き始めています。たとえば、Highlander社は中国・海南島近海に約1,400トン級の水中データセンターを配備し、海水で冷却しながら本番サービス向けに利用していると報じられています。
参考:中国、1,400トンの商用海中データセンターを配備(Data Center Café)
海の使い方が変わる未来
海中データセンターの価値は、海水で冷やせる点だけではありません。“立地最適化”という観点でもポテンシャルがあります。
多くの大都市は海沿いに形成されており、ユーザーの密度が高い地域が海岸線に集中しています。ネットワークは距離が短いほど遅延が減るため、利用者の近く――つまり海沿いにサーバーを配置できることは、サービスレスポンスの改善につながります。
また、海中タイプは大規模な土地取得や建設プロセスを必要とせず、工場で製造したユニットを海に運び、設置するだけで運用を開始できます。従来型データセンターに比べ、立地制約が小さく、展開スピードを高められる点も利点です。
まだ広範に普及する段階ではありませんが、海が“新しい設置領域”として再評価され始めているのは確かです。
まとめ
海底でサーバーを運用するアプローチは、一見奇抜に見えますが、故障要因の排除や冷却効率の高さなど、データセンターの課題に対して明確な合理性があります。中国のように商用化を進める例も出てきましたが、環境影響、法規制、設置コストといった論点は依然として大きく、現段階では“実証フェーズ”を抜けきってはいません。
それでも、冷却性能・立地選択肢の拡大・沿岸都市への近接性など、従来の陸上型では得られないメリットが見えつつあります。海中データセンターは、今後のインフラ設計を考えるうえで無視できない選択肢になるのかもしれません。
では、次回もよろしくお願いします。
