ナッカルビのウラナミ『出会いたくない巨大波』

ナッカルビ

ナッカルビ
湘南生まれ、湘南育ちながら海との接点が乏しい半生を歩む…。 今は自分の趣味より家族を優先しがちな中年です。 会社で教わったSUPを趣味にできたら、うれしいな。IT局所属。

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こんにちはナッカルビです。
巨大波(きょだいは)について、ご存知でしょうか。
サーファーの憧れビッグウェーブ……ではなく、大型船をも沈めうる突発的に発生する大波のことです。

 

巨大波とは何か?定義と特徴

船舶や海上の施設にとって、波は常に注意すべき自然現象ですが、中には通常の波とは一線を画す、まれに発生する非常に高くて強い波が存在します。それが巨大波です。

巨大波とは、海洋で発生する波のうち波高が特に大きい特殊な波のことです。一般に海洋の波の高さは有義波高(=天気予報などで示される波の高さ)によって表されますが、巨大波は有義波高の 2 倍以上の高さになります。例えば、有義波高が 5m の場合、巨大波は 10m 以上の高さに達することになります。

通常の波と巨大波の違い / Credit: かぼ、Wikipedia:巨大波より、CC BY 3.0

通常の波と巨大波の違い / Credit:かぼ、Wikipedia:巨大波より、CC BY 3.0

この波が危険な理由は「周辺の波高と大きな差」があり「出現予測が困難」な点にあります。嵐で海が荒れているときだけでなく、穏やかなときにも突然現れることが知られています。
海外ではフリークウェーブ、ローグウェーブ、キラーウェーブなどの名前で呼ばれており、昔から船乗りたちの間で恐れられてきました。

 

巨大波の歴史と事例

実は巨大波の研究が本格的になったのは、現代になってからです。
それまで何世紀にもわたって、この波は航海における神話に過ぎないと考えられてきました。なぜなら遭遇した船員の多くが生還できず、報告数が限られていたからです。20 世紀に入ると造船技術が進歩し、目撃証言が増えていきます。

事例①

1966 年 4 月、イタリアの豪華客船 ミケランジェロ号は巨大波に遭遇し、その衝撃により乗客 1 人と乗組員 2 人が死亡し、数十人が負傷しました。なんとかニューヨークに到着した船体には、巨大波によって破壊された生々しい傷跡が残りました。この動画は巨大波の危険性を示す貴重な記録です。

事例②

1980 年 12 月、千葉県房総半島の最南端・野島崎沖における大型貨物船 尾道丸の遭難事故は波高 20m 越えの巨大波と遭遇し、スラミングによって船首部損傷したことが原因だと考えられています。

国土交通省 海難審判所 – 日本の重大海難 – 貨物船尾道丸遭難事件

事例③

初めて測定器によって検出されたのは 1995 年のこと、ノルウェー沖約 160km の海洋資源掘削プラントになんの前触れもなく、高さ約 26m の波が衝突したのです。当時の周辺の波高は 12m だったので明らかに異常な波だったことがわかります。これにより巨大波の実在に対する疑念が払拭され研究が加速しました。

ECMWF – What conditions led to the Draupner freak wave?

 

巨大波の再現と浮世絵

2018 年にはオックスフォード大学とエディンバラ大学の研究チームが巨大波の再現実験に成功しました。実験室で 2 つの波グループを発生させ、その交差角を変化させることで巨大波を作りました。以下の動画では再現した波の形が、葛飾北斎の有名な浮世絵「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」に出てくる荒れ狂う大波に似ていることが指摘されています。

Famous freak wave recreated in lab mirrors Hokusai’s ‘Great Wave’

もしかしたら……北斎は巨大波の目撃者だったのかもしれませんね。(これは三角波だ、という見解もあります…)

今では巨大波は予想より多く発生していることがわかってきており、温暖化などにより発生しやすくなっていると言われています。これからも世界中から様々な観測データが収集されることで、科学者たちはより詳細な研究を進めていくことになるのでしょう。いずれ巨大波の発生原理について、より深く理解できた暁には、発生リスクを予測することが可能になるかもしれません。

世界の物流の 90% 以上は海運(=船舶)が担っており、我々の便利な暮らしを下支えしてくれています。海運に携わる方々の安全のためにも、この分野の研究開発が進むことを期待しています。

では、次回もよろしくお願いします。

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