Matt Etxebarne photo Matt Cibluka
Black Friday #5
Futuristic Surfing フォイルで大波に乗るフランス人コンビ
ブラックフライデースウェル、ジョーズセッションで一番観客を沸かせたのは実はパドルでもトウインでもなく、フォイルサーフィンでのライディングだった。
フランスから来たマット・エクセバーンとトム・コンスタント。
この日彼らが乗った波はネット上で何万回もチェックされ大きな話題を呼んでいる。
ものすごいスピードが出ているにも関わらずスプレーもたたないしバタバタもしていないのでスローモーションのようにも見える不思議な未来的とも言えるライディングだったが、これがいかにリスキーなものかは見ているもの誰もが感じていた。
一躍スターになった二人に話を聞いてみた。
トムは30歳、マットは22歳、二人はフォイルサーフィンが始まったばかりの頃、まだそれほどやってる人がいない頃にバスク地方で出会い意気投合した。
「僕らはフォイルを始めた初期からずっと二人で、フォイルで大きな波、それもうねりではなくサーフィンと同じラインで波に乗ることを目指してきたんだ。
地元バスク(フランスの西海岸)を始め、タヒチ、フィジー、バリ、ナザレと少しずつ、よりパワフルで大きな波でも持ち堪えられるスピードが出るフォイルをテストし続け、ワイプアウトに耐えられる体づくりのトレーニングもしてきた。
もちろんジョーズはビッグウェーブを目指すものなら誰だって目標にする場所、特に一番大きなチューブに乗れる可能性がある場所だから、僕たちもずっとずっと憧れてきたし、多分世界の誰よりもこの波の動画を見て研究してきたと思う。
そしてフォイルにもスキルにもある程度自信ができてこの冬こそはジョーズでと狙ってはいた。
ただ今回は急なことで慌てて準備したので、着いたのが前日の夜、セーフティーなどの手配もギリギリすぎて皆にもういっぱいだと断られ、ハーバーに朝ついてからやっと自分たちが乗る船を知り、ブリーフィングもなし、インフレータブルベストのカートリッジを手に入れる暇もなく、カイ・レニーにもらってなんとか船に乗り込んだというドタバタぶりだったんだ。
とはいえ心の準備はできていた。」
とトムが言うと横でマットがうなづいた。
「ジョーズに着くと、しばらくはパドルサーファーがいたので船の上で待たなくてはいけなかった。
でもおかげで波のことをよく観察し、どの波に乗るべきかじっくり見ることができたし、どんな危険を想定すべきか色んなことを考えることができた。
ただパドルで乗るにはかなり大きな波で、いい波がいくつも誰にも乗られずにすぎていくのを見て、もう乗りたくて乗りたくてたまらなかった。
それに風が吹いてくるのもわかっていたので、とにかく一本だけでいいから乗りたい!」
そんな気持ちで見ていたらしい。
フランスから突然マウイまで来るには飛行機代もオーバーチャージもとてつもなくかかる。
その上それぞれセーフティーやボート代も払っている。
一本だけでいいとは言いながらも船の上で待ちながら波を見ていると、チャリンチャリンとお金が落ちていく音が聞こえる気分にもなってきて、少し焦りも出てきて完璧な精神状態をキープするのが難しかったらしい。
マットがその後の様子を語ってくれた。
「そんな時突然ゼインがPWCに乗って船に近づいてきた。
『今やるか?』
『え?今?』
と突然すぎて焦ったけどチャンスを逃すわけにはいかない。
急いで深呼吸をし心を落ち着けて集中し、ゼインに引っ張ってもらって沖に向かった。
『僕は一本だけいい波に乗れればそれでいいと思ってる。
でもその一本は自分がこれだと思うものに乗りたい。
フォイルでこの波に乗るのは本当にリスキーなのは君もよくわかってるだろう?
これだと思う波に乗って怪我したら本望だけど、バッドな波で怪我したくない。
だから忍耐強くこれだと思う波を待ちたい』
そう伝えてあった。
これはどうだと何本も引っ張ってもらったけれど、いくつかの波はウエストすぎたし、フォイルだとセットの一番目の波に乗らないとダメなんだ。
なぜかというと前の波が大きいとスープで白くなっているところでフォイルがキャビテーションを起こすから。
そんなことで何本も見過ごしているうちに、巨大なセットが目の前にやってきていた。
ちょっと奥にいる気もしたが、これに乗らなければこれ以上のものは来ないと感じたので、いくしかないと思ってゼインにサインを送った。
狙った通りの波だった。
大きくて掘れていてフェイスには白い泡が一つもなかった。
ただしあまりにスピードが出過ぎててサーフボード以上にフォイルだとターンするのが難しい。
とにかく、オーバーフォイルしてこの波に巻かれるというオプションは頭に無かった。
とにかくメイクすることだけを考えてものすごいスピードで乗り切った。
自分ではよくわからなかったけど周りの皆や、崖からも歓声が聞こえた。
今までで一番大きな波で、一番スピードが出ていたことは感じていた。
あとで映像見たら、ああ、もうちょっとスピードをコントロールしてたらチューブに入れていたのにと後悔したけど、それは次のお楽しみだね。
満足した波に乗り、そりゃあもちろんその後もカイ・レニーみたいに続け様に何本も乗りたかったけど、ビジターだし、順番もあったのでそれで満足だと言って船に戻り、トムと交代したんだ。」
次はトムの番だった。
「僕は沖にいたから、マットがどんな波に乗ったのかは見れていなかったんだ。
でも大歓声も聞こえたし交代する時に、『ものすごいスピードが出る』と僕に言ってきたので、気を引き締めてロープをつかんだ。
ただ僕は船の上でも、そしてマットが波に乗ってる間もずっと待っていたからちょっと精神的に焦りがあったんだと思う。
波に乗っているときは、お金のことなんて考えず乗る事に集中しなくてはならないのに、このまま一本も乗れずに終わったらものすごい損失だなどと考え始めていた。
トウインしているチームも増えてきていたし風も上がりつつあった。
なんとか一本でいいから大きな波にと狙いながらゼインと沖を行ったり来たりしていたら目の前にどでかいのがやってきて、僕に優先権があった。
これだ!
と思って乗ろうとしたのに、その大事な波を乗り逃してしまった。
ここでさらに焦って次にきた波に思わず乗ったんだ。
それが大きな間違いだった。
というのはフォイルでは大きなセットが来たら最初の一本目に乗らないと、海面が泡だらけになってフォイルがブレてキャビテーションを起こす。
ものすごいスピードでフェイスを降りていく途中でちょっとでもキャビテーションが起きたらもう終わりだ、僕はまさにそんな初歩的な判断ミスをして大まかれした。
その上フォイルボードはそのまま岸まで流され打ち上がってしまった。
僕は岸近くに落としてくれたら道具を取り戻して戻ってくるとセーフティーに伝え降ろしてもらったがそこでもう一つ大きな間違いを犯した。
ショアブレイクの怖さを甘くみていた。
聞いてはいたけれど、ここまで危険だとはわかっていなかったんだ。
何しろ初めてのジョーズで岸からは見てもいない。
何度もショアブレイクに頭をかち割られそうな状況を抜けきり、なんとかボードを取り戻したけどフォイルは完全に破壊されていた。
このまま終わるわけにはいかない。
必死でショアブレイクを抜けて沖に出ようとしたが、沖で待っていたゼインまで声は届かずコミュニケーションがうまくいかなかった。
ゼインは、これは無理だと思ったのだろう。
ボートに戻って行ってしまい、僕は自分のセッションがこれで終わってしまったことを理解して、壊れた板と一緒に崖を登っていったよ。
巻かれた波も含めて二本、その日にボートなどに払ったお金だけで計算して一波600ドルってとこかな?
泣くに泣けない思いだった。」
トムは続ける。
「その夜は二人ともなんとなくモヤモヤした気持ちだった。
とにかく莫大なお金をかけてきていたのでもっと乗りたかったし、やはりパートナー同士で引っ張り合わないと息が合わないからライディングもベストにはならない。
必死でPWCをレンタルさせてくれる人を探してみたけど誰も貸してくれない。
ジョーズで使うのに貸す奴はいないとキッパリ言われたよ。
まあ、そうだよね。
ただインパクトを残せたのは確かだったし、何より、今までずっと憧れだったこの場所で憧れ尊敬してきたレジェンドたちと並んで波をシェアし合えた。
お金のことや波数乗れなかったことを不満に思うより、良かった事にフォーカスしようと思えるようになった。
落ち着いて振り返ってみると、世界中のメディアに彼らが乗った波が取り上げられ、マウイのローカルたちもクレージーだなと言いながらも褒めてくれた。
宿も車も決まってないままマウイにきたけど快く受け入れてくれた素晴らしい家族もいて、みんなが親切にしてくれた。
日が経つにつれてマウイにきて本当に良かったという気持ちがじわじわと出てきたよ。」
トムは二人の情熱についてもこう話した。
「僕ら二人が初期の頃から意気投合したのは目指してるところが同じだったから。
そして周りに同じ考えを持つ人はほとんどいなかった。
僕たちはビッグウェーブ、それもクリティカルなラインをフォイルで乗ることを目指してやってきたけど、どこにいってもフォイルは小さな波で乗るものでそんなのは無謀だ、無理だと言われてきた。
そう言われる度に僕は『ありがとう、そう言ってくれる君のおかげでさらに絶対にやってやる!というモチベーションが上がるよ!』
と心の中で言っていたよ。」
まだまだ思い描いているパフォーマンスには程遠い。
これからもどんどんプッシュし、フォイルの性能も自分たちのスキルや経験値も上げていく、そしていつかはチョープやジョーズでチューブをメイクするのが目下の目標だという。
そして何より楽しむことが条件だと言う。
「僕らはトレーニングのためにいろんなことをしてる。
今回も朝3000メートルあるハレアカラまで自転車で登ったり、何キロも泳いだりしていた。
でもそういうトレーニングもためになると同時に楽しくて仕方がない。
限界に挑戦するという意味ではフォイルでビッグウェーブに挑戦するのと同じ楽しさなんだ。」
とマットは目を輝かす。
「そこまで入れ込んで頑張りたいと思える目標を二人でプッシュできることが一番の楽しい部分だし、当分はそこにフォーカスしていくよ。
ジョーズ、冬が終わる前にまた会おうぜ!」
現在それぞれニューカレドニア、ポルトガルへと向かった二人はまた1月のハイシーズンにマウイに戻ってくる計画を立てている。
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