#4ブラックフライデーハイライト
まだ朝日が登る前の暗いうちからカイ・レニーはトウインで波に乗っていた。
今日はずっと練習してきたトウインサーフィンのエアリアルマニューバーを決めたい!
それがメインのフォーカス。まだ目を凝らさないと彼の動きが見えないような夜明け前に、すでにものすごいスピードでエアリアルを決め始めた。
ここ数年エアリアルマニューバーを思い浮かべトランポリンや小波からスタートし、スノーボードパークやウェーブプールなどにも出向いて特訓。
最初のうちは誰もそんなことができるなんて思っていなかったが、彼自身はトライし続ければいつかはできると確信していた。
「他のことも全て今までそうだったし、1年や2年ではできないかもしれない、でも5年かけて何千回、何万回繰り返したらできるようになると思ってる、その時の喜びを想像したらいくらでも頑張れるよ」と話してくれていたのがすでに2年前。
今年は本当にジョーズサイズの波のリップでバックフリップ、360、そしてマックツイスト(ひねりの入った前周り)とメイクし、そのまま乗り繋ぐライディングを決めていた。
朝日が昇り少しずつパドルサーファーがラインナップに出てきた。
まず波に乗ったのはサップボードで出てきたゼイン・シュワイツアー、誰よりも奥にポジショニングする度胸はさすがベテラン。
彼がセットの波をメイクし、パドルセッションがスタートした。
オースティン・カラマは父であり、ジョーズのパイオニアであるデイブ・カラマが発案したハンドパドルを使って人より早めにテイクオフ。
パワフルなチューブを抜け出て、ハワイアンウォーターマン4代目の意地を見せた。その後、彼はトウインでもチューブ狙いの素晴らしいライディングを見せていた。
ミスターウエストボール、ジョーズのチューブライドではダントツのスタイルを見せつけてきたアルビー・レイヤーは数年間ひどいワイプアウトからの脳の損傷で苦しんでいた。
加えて去年一年はマウンテンバイクで背骨を骨折し、そのためのリハビリでかなり真剣にトレーニングを積み、夏にはパドルレースをトレーニングとしてやり始め、リハビリ仲間カイ・ポーラと一緒にモロカイ2オアフという世界一過酷なパドルレースにも参加し、体調も完全復活しているように見える。
予報を超えるサイズの波が休みなく押し寄せる中、パドルでテイクオフするのは非常に難しそう。皆乗ろうとはするけれど波のスピードそしてエアードロップに持ちこたえられない。
そんな中、アルビーが得意のエアードロップからバンピーなフェイスにガッチリレールを噛ませて、メラメラとしてくるリップの下に体をタックイン。
二本の文句なしのチューブをメイク。他にも、ジョーズが割れると必ずオアフからやってくるトレーバー・カールソン、13歳の時からジョーズに入っているタイラー・ラロンドもハードなドロップを決めていた。
しかしなんと言ってもこの日の主役は、15歳のベイビースティーブこと、スティーブ・ロバーソン、この日一番大きなセットの波に乗り、ものすごいスピードやパワーにも決して負けない力強いライディングで見ているものを感動させた。
彼は5歳でホノルアの大きな波に乗ったことで名前を知られ始め、11歳か12歳の時にジョーズに乗り始めた。
生まれながらにしてビッグウェーブとパワフルなチューブのために生まれてきたような存在。
15歳にしてすでにベテランのような自信に満ちたライディング。
たくさんの若い世代の中でビッグウェーブでは頭ひとつ抜けた存在だ。
この日のここで一番大きな波に乗った後、午後はホノルアベイでビッグチューブを何本も乗っていたそうだ。
この日は午後から風も吹く予報だったり、サイズもそこまで大きくなると予想されていなかったので、オアフやメインランドからもそれほどたくさんのサーファーが来ていなかった。
知り合いばかりのラインナップで、お互いコミュニケーションをとりながら邪魔をせずに乗れて良かったのではないかと思う。
9時半ごろにはすでに沖の方が白波だらけになってきた。
パドルでのテイクオフはほとんど不可能。
一人また一人と少なくなり、トウインセッションとウインドスポーツの出番だった。
カイ・レニーはとにかくトウインでのエアリアルの完成度を上げるために何度も何度もトライ。
おそらくこの日だけで30本は波に乗ったのではないだろうか?ジョーズは一回出ても1、2本乗るので精一杯、下手したら年に2回くらいしか割れない年もある。
だからこそ一本乗ることに大きな価値があるのだけれど、とにかく数乗れば乗れるほど上達するし、慣れる。
カイはいろんな道具を使って普通の人の10倍以上の数のジョーズの波に乗ってるから、そりゃあ他の人は勝てるわけがない。
彼が乗ると素人でもカイ・レニーだと見分けることができるほど際立っていた。
ウインドスポーツで最初に出てきたのが石井兄弟の兄、孝良。
そしてつぎに弟の颯太。
その後すぐにカイトが2機出てきた。かなりのオフショアでアウトに出る時はほとんど動かない状態で波を越えるのを見てるこっちもヒヤヒヤ。
カイトサーファーはジョーズ常連のジェシーとパトリ。
二人は子供の頃からプロとしてワールドチャンピオン経験者で、ビッグウェーブの良いパートナー。
その後ウインドサーファーも一人また一人と出てきて、どれも誰もが認めるジョーズの常連選手ばかり。
トウインはカイと弟のリッジ・レニー、そしてブラジリアンでジョーズパドルサーフィンのパイオニアでもあるユーリ・ソレデートが目立っていた。
パドルで乗りたいと思って来ていたけれど風が強くトウインで乗っていたイーライやトーレ・メイスナーなどの姿もあった。
一日中ライダーたちが大きな怪我もなく何本もの波を楽しめたのは、マウイの精鋭セーフティーチームがあってこそ。
ライダーたちは自ら選んであの波に乗り、まかれるけれどセーフティーたちには助けに行く時選択はできない。
誰がどんなワイプアウトをしても、大きなリスクを理解しながら助けに向かう。
ジョーズの一番のヒーローはどの日もセーフティーメンバーたちだと今ではライダーたちも理解している。
彼らはチームを組み、日頃からトレーニングやどう動くかのミーティングをしたり、CPRコースを一緒に受けたりして団結力を強め、ジョーズで死者が出ないようと、誇りと責任を持って活動している。
「ジョーズはシリアスな場所であり、イケイケで1発やろうという人には来てもらう必要もないし、来て欲しくない。
来る前に必ずセーフティーを頼み、安全に乗れるプランを作ってから来てほしい。
僕らはその場で誰かが困っていたらそれを見ないふりすることはできない。
でもPWCや自分へのリスクは大きい。
セーフティーへの謝礼が高いと文句を言う人は来なくていいんだ。
自分の命の価値を分かっていないということだからね。
僕らは自腹でPWCを買い、整備をし、それでも助けるためにPWCを壊すことだってある。
でもお金がかかるから助けないとは言わない。
みんなが同じ感覚でジョーズに向き合う気持ちがなければうまくいかないんだ。
この場所へのリスペクト、ローカルたちの立場を理解してくれる人とは一緒にこの素晴らしい波をシェアすることに喜びを感じるし、心からサポートするよ。」
セーフティーたちは口を揃えてそう言う。
ブラックフライデーはまさにマウイらしいジョーズセッションだった。
サーフボード、パドルサーフィンだけでなく、ありとあらゆる道具でジョーズの波に乗り、違うスポーツではあれ、それぞれがお互いを尊敬し、その場にいられるという幸運に感謝し、讃え合っていた。
違う道具であっても波をシェアし、一緒に楽しむことができるんだという良い見本を目の当たりにできた。