唐澤予報士のウラナミ『台風と北緯20度』

唐澤予報士

唐澤予報士
唐澤予報士:1991年、沖縄でサーフィンを始める。(スノーボードも開始)  1993年、初めてフルマラソンを完走。1999年、気象予報士資格を取得し登録。現在に至り、一児(娘)の父です。

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概況で「台風が、台風からのうねりが入る目安である北緯20度を越えてくる見込み」というのを読んだ方は多いのではないでしょうか。台風が北緯20度を越えると、本土に台風からのうねりが届くことが多いために、このような表現をよく使います。

これが本当に正しいかと言われると、結論としては「正しくもあり、正しくもない」と言えます。

この台風が北緯20度を越えてくると、本土にうねりが届くということに、科学的な根拠はありません。あくまでも、統計上・経験上で、「台風が熱帯域・亜熱帯域で発生したのちに、北緯20度付近にまで北上するタイミングで本土にうねりが届くことが多い」となっているだけです。ということは、台風が北緯20度を越えても本土にうねりが届かないこと「も」あれば、台風が北緯20度よりも南にあっても本土にうねりが届くこと「も」ある、ということになります。

直近で、北緯20度を越えた前後に本土にうねりが届いたケースとしては、7月に発生した台風9号となります。
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一方で、台風が北緯20度線を越える前に台風からのうねりが届いたケースとしては、2024年の台風21号となります。北緯20度を越える前のマリアナ諸島付近からフィリピンに向けて西北西進していた時点で本土にうねりが届いています。
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また、近年の地球温暖化や海水温度の上昇により、台風の発生域が従来の熱帯・亜熱帯域ではなく、日本の近海で発生することが多くなっています。このような場合は、北緯20度はまったく関係ありません。

直近ですと、8月8日に発生した台風11号は、発生したのが北緯20度付近でした。この台風11号からのうねりが本土に届いたのは、北緯20度線を越えて西進を続けた8月11日ころからとなります。
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先日の台風15号においても、湘南でグングンとサイズアップしたのは、台風が相模湾を通過した直後でした。
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また、『スーパー台風』と呼ばれる日本の気象庁が設定している『猛烈な台風』よりもさらに強い台風が発生するようになっています。スーパー台風は、従来の台風よりも、中心付近の最大風速が強く、暴風・強風域が広くなっています。このような『スーパー台風』では、北緯20度付近にまで北上してくる前までに本土に台風によるうねりが届く可能性があります。

では、なぜこのように、台風が北緯20度を越えてもうねりが入らないようなことがある一方で、台風が北緯20度を越えなくてもうねりが入ることがあるか、というと、風浪の発達とうねりの速さのためです。

うねりの元となる風浪(風波)は、風が吹かないと発生しません。また、ある程度の時間・長さ・強さで風が吹かないと発達しません。ということは、台風があったとしても、台風による風が、ある程度の強さで、長い距離に渡り、長い時間吹いていないと、風浪は発達しません。このような場合は、台風が北緯20度よりも北にあっても、うねりが届くのはさらに時間がかかるようになります。
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次にうねりの速度です。うねりの速度は速い時には時速50kmとなります。台風の動きが遅いとき(または停滞しているとき)は台風がやってくる前までに台風のうねりが先に届くことがあります。先に書いたスーパー台風などが、北緯20度よりも南で停滞していたのであれば、台風の北上に関係なく、うねりが届くことになります。一方で、台風の北上が速い場合は、うねりと台風が同時に北上することになり、台風が北上してきた時点でうねりが届く、ということもありえます。

あくまでも、「台風が、台風からのうねりが入る目安である北緯20度を越えてくる見込み」というのは、風浪が発達して、風浪から変わったうねりが、日本本土に届くのが、台風が北緯20度付近にまで北上するタイミングとほぼ一致することが多かった、ということになります。

近年の地球温暖化や海水温の上昇により、従来の常識が通用しなくなっています。巨大台風が発生することもあれば、日本の近海で台風が発生することが多くなってもいます。なかなか、台風の波を予想するのは難しいのですが、これからも皆さんが良い波に乗れるように、しっかりとした予報を伝えていきたいと思います。

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