
ロス・アンジェルスは、南カリフォルニアの大都市である。
シカゴと結ぶルート66の起点、多くの綺麗なビーチ、西海岸の暖かい気候、カジュアルで自由なスタイル。
忘れてならないのは、映画スターを生み出した中心地ハリウッドである。
南カリフォルニア育ちの監督ジョン・ミリアスは、若き日々をこのエリアで過ごし、美しいサーフポイント、マリブへのオマージュとしてこの映画を制作した。
「ビッグ・ウェンズデー」の有名なイントロダクション。
1962年夏 南からの波。遠い昔、渓谷から吹き抜ける風を覚えている。
サンタナと呼ばれる暖かい風だ。
早朝に風が海へ吹き抜け、車の中で寝ていた僕たちは、その匂いで目覚めた。
毎朝、今日が特別の日と思えた。
カリフォルニアの海辺の町で、マット、ジャック、リロイを中心とする若者たちで作るサーフィン・グループのお話。
幕開けのシーンでロングボードが立てかけられた塀の場所がマリブをイメージしている。
若き主人公のマットはランス・カーソン、師匠ベアーはハップ・ジェイコブスがモデルと言われ、青春映画と言われているが、年齢とともに感じ方が変化するサーフィンを中心にした素晴らしい映画である。
ロス・アンジェルスの空港に降り立つと厳しい検査で有名なイミグレーションを抜け、空港から出る。
空いっぱいに広がる青空、年中乾燥した空気が夏でも涼しく感じる。
太陽光は厳しいが、レンタカーから流れてくる流行りのポップ音楽が心地よい。
ロス市内から、西に向かうと海岸線に突き当たり、スケーターに人気のベニスビーチ、サンタモニカ、さらに北西へ向かうとトパンガの海岸がある。
ロスの市街からほど近いこの街に住む知人のカメラマン宅へ向かい、サーフボードを借りる予定だ。

トパンガの山手に広がる住宅街は、落ち着いた雰囲気で、車やガレージが並んでいる。
ここには、海の側にパーキングがあり、ビーチへのアクセスが良いので、週末には人気の場所、波は右側から綺麗にブレイクしている。
玄関の呼び鈴を鳴らすと『ハイ、カモンイン!』と迎え入れてくれ、広いリビングを抜けた海の見える広いテラスに案内してくれた。
『そこの真下がトパンガビーチ。その左側の岩場は秘密のサーフスポットで、波が大きい時だけサーフィン出来るんだ。』
ソファでゆったりとコーヒーを飲みながら、海を見渡し、
『今日はどこに行く?』
『マリブに行ってみたいな。』
自宅にある 何本かのサーフボードから長めのファンボードを選んで、車に積み込み、山の上から海岸線のパシフィックハイウェイに戻り、北西へ向かう。
しばらく走ると、右手の丘に連なる渓谷、左手にマリブの桟橋が見えてくる。
すでにハイウェイの両側には多くの車が駐車して、すでに早朝のサーフィンを楽しんでいる。
渓谷から流れる川の石が、大きな扇状に堆積しているので、夏の真南からのうねりは岸から見て左へ綺麗に崩れていく。
週末は、朝早くから道路の両側に駐車できるスペースが車でいっぱいになる。
『ちょっと遠いけど右側に停めるよ。』
道路をターンして逆車線山側のスペースに駐車する。
道路を渡らないといけないが、高速で両側からくる車のすき間を見つけないといけないので、慣れないとなかなか渡りづらい 。
マリブを見下ろすことのできる丘の上はプライベートを重視するハリウッドセレブの豪邸が並んでいる。
このエリアの住民は、沖合の高速道路や発電所などのいくつかの開発案を拒否し、豊かな自然を守る意識が強く、大自然と美しく広がるビーチが昔からのままである。
映画やドラマ、ミュージックビデオなどでのシーンが撮影され、俳優やミュージシャンなどは、その場所の魅力を知っているからこそ、マリブに憧れるようだ。
規則正しく、ゆっくりとブレイクしていくファーストポイントの波は、ロングボード向き。
マリブ・ラグーン寄りのサードポイントはショートボード向きではあるが、インサイドのファーストポイントは、一つの波に3人乗っても優雅にクルージングできる長い波だ。
『最高の波だね。』と言うと、
『混雑がなければね。』と返された。
3本乗れれば、十分だと思い、パドルアウト。
確かに完璧な波だ!
トライしてみる価値は十分にある。
朝は無風の波も、昼頃には快晴となりゆるい海風が吹いてくる。
ビーチには、水着のファミリーがタオルを敷き詰め、パラソルの下で日がなゆったりと休日を過ごしている。
家族連れ、友人同士、みんなビーチに座り、楽しんでいる。
『みんな好きなスタイルで楽しんでいるんだね。STYLE IS IMPORTANT.(スタイルが大切だね)』と言うと、
即座に『YES, STYLE IS EVERYTHING! (スタイルこそ全てさ)』と返された。
海の中を見ても、冬用ウエットスーツ、半袖ウエットスーツ、ボードショーツと襟付きシャツ。
ロングボード、ショートボード、ツインフィン、ファンボード。
皆、自由なスタイルで楽しんでいる。

マリブが混み合っている時は、少し足を伸ばして、綺麗な砂浜が広がるズマビーチが良さそうだ。
東を向いているので、冬にも良い波が立つ。
人混みを嫌うならその少し先にも、右端の岩場から綺麗な波が立つ『レオキャリロ』に良いブレイクがある。
その途中の道路から見えない場所にも隠れた良い波があるらしい。
そこから先は、1号線(パシフィックハイウェイ)がベンチュラ、オックスナード、サンタバーバラへと北に向かう。
この海岸線を走っていると、次はどこで波に乗ろうかと、それだけで旅を続けたくなる。
夕暮れが近づき、太陽が西の水平線へとゆっくり傾いていく。
乾燥したカリフォルニアの空気の中では、夕方の光が一段と鮮やかに感じられる。
海も、街も、走る車も、少しずつオレンジ色に染まっていく。
遠い南の半島バロスベルデスの住宅街の窓に光が反射して綺麗に輝いている。
朝から波に乗り、海を眺め、気の向くままに海岸線を走り、そして一日の最後に太平洋へ沈んでいく夕日を見る。
朝日が昇ってから夕日が沈むまで、一日を丸ごとこのエリアで過ごす。
そんな何でもない時間こそが、旅をしていると、とても贅沢に思える。
そしてふと、「ビッグ・ウェンズデー」の冒頭の言葉を思い出した。
今日もまた、特別な一日だった。







