
パタゴニアが新たに掲げたコンセプト──「オーシャンズ」。
その動きは、単なるカテゴリーの広げ方ではない。ブランドの原点である“海と生きる”姿勢を、もう一度深く掘り下げるための再定義だ。
では、その変化は実際に海で生き、海に育てられてきたサーファーたちに何をもたらすのか。
その答えを探るために始めた本企画は、全2回。第1回となる今回は、アンバサダーとして現場でその変化を肌で受け止めている武知 実波さんに話を聞いた。
パタゴニア大阪・中之島/アウトレットを舞台に、“オーシャンズ”という新しい旗のもとで彼女が何を感じ、これからどんな波を起こそうとしているのか──その言葉を追う。
Vol.1 武知 実波さん
自己紹介とパタゴニアとの出会いや、関係が始まったきっかけを教えてください
徳島県阿南市出身で、現在も地元を拠点に活動しています。
現在はアンバサダーとしての活動と並行し、塾の運営を行うほか、サーフィンのコーチングや講演活動なども行っています。
また、徳島県サーフィン連盟の事務局長やNSA副理事長などの役職にも就いています。
パタゴニアさんとは10年以上のお付き合いになります。
大学生の頃、まだプロとして活動していた時期にご縁があり、アンバサダーとして活動させていただくようになりました。
現在取り組んでいる活動や、ご自身の関わっているコミュニティについてもお聞かせください
生まれ育ちは徳島県阿南市で、基本的には子どもたちを対象に、サーフィンを通じた教育活動を行っています。
実家がサーフショップを経営していることもあり、家族や地域の皆さんと協力しながら、スクールのような形でコーチングをしています。
また、パタゴニアのサポートを受けながら、毎年夏にサーフィン体験と環境学習を組み合わせたビーチスクールを、地元・阿南市で子どもたちを対象に開催しています。
アンバサダーとしては、「サーフィン」と「教育」という2つの軸を大切にし、そのかけ合わせで新しい価値を生み出せる人材になりたいと考えています。
その一つの取り組みとして、学校教育にサーフィンを取り入れていくことを目指しています。
もともと私の父のサーフショップのお客さんに小学校の先生がいて、子どもたちにサーフィンが良い影響を与えるという考えを持つ方でした。その考えに共感し、その方を一つのロールモデルとして活動に一緒に取り組ませていただきました。
コミュニティにとって子どもはなくてはならない存在であり、今の子どもたちの状況をしっかり見つめることがとても大切だと感じています。
子どもたちがより良い環境の中で、環境への意識や価値観を育み、豊かな心を持った大人へと成長していけるような活動を続けていきたいと思っています。
地域全体では少子高齢化という課題もありますが、Uターン人材も増えており、サーフィンがつなぐコミュニティの在り方を示していけるのではないかと感じています。

オーシャンコンセプトへの変更を受けて
新しいコンセプトに対し、共感する部分や、どんな印象を持ちましたか?
そもそも私たちのフィールドは「オーシャン(海)」なので、新しいコンセプトにもまったく違和感はなく、自然に受け入れることができました。
「オーシャン」というキーワードがより広い意味を持つようになったことを、とても嬉しく感じています。
その分、コミュニティの輪も広がり、さまざまな人たちと協働していける可能性が生まれると思うと、とてもワクワクしています。
今後、アンバサダーとしてどのような活動をしていきたいと考えていますか?
「サーフ」から「オーシャン」へとコンセプトが広がったことで、これまで以上に多くの人とつながれるチャンスが増えたと感じています。
今後、地域と海をつなげられるような人材になりたいと思っています。
いま社会全体として「海離れ」が課題となっています。
人と海との精神的な距離が開いてしまっていると感じますが、海が人間に与えてくれる恩恵は本当に大きいと思います。
人生に影響を与える価値観、地域への愛着、自然への感謝。そうしたものを自分の実体験をもとに伝え、海との接点をつくっていける人材の一人になりたいです。
そのために、「海に行ってみたい」と思えるようなイベントや発信を、パタゴニアさんと一緒に取り組んでいきたいと思います。
また、サーフィンが子どもたちの発育や成長に良い影響を与えるということを広めていくのも、自分の使命のひとつだと考えています。
これまでと比べて、意識や行動にどんな変化がありそうですか?
視野は確実に広がっていると感じます。
アンバサダーとして活動させていただく中で、ブランドのミッション・ステートメントが自分の考えにもしっかりと重なっており、それを常に念頭に置きながら日々の活動に落とし込むようになりました。
より広く、より多くの人と協力していくという、前向きな意識の変化が生まれています。
また、さまざまなフィールドのアンバサダーの方々と関わることで、多くの刺激を受け、自分自身も新しいアクティビティに挑戦してみたいという気持ちが強くなりました。
自分にまだ足りないスキルがあっても、他の人から刺激を受け、リスペクトし合うことで、より大きなコミュニティが生まれていく——
そうした関係性を築いていくことこそが、私たちアンバサダーの使命であり、これから取り組んでいくべきことだと感じています。
パタゴニアへの期待
オーシャンコンセプトの展開にあたって、パタゴニアに期待することはありますか?
これまでも皆さんと協力して取り組んできたことは、信頼に値するものであり、その積み重ねはとても大きな意味を持っていると感じています。
だからこそ、これからの10年、20年と、引き続き力を合わせて活動を続けていくことが大切だと思います。
海洋環境への思い
普段の活動を通じて、海の環境問題や地域との関わりについて感じていることがあれば教えてください
いろいろな話を聞く中で、ポイント(サーフスポット)の消滅の危機といった深刻な話題もあります。
徳島は市民運動が活発な地域で、私たちもできることを情報共有しながら、「どうしたら守っていけるのか」を地域のみんなで集まって話し合うようにしています。
地域の自然資源を守るために地域で価値観を共有し、前向きに話し合えるコミュニティの存在は本当に大きな財産だと思います。
「ピーク(サーフポイント)を守る活動」や「海水温の上昇」「気候変動」など、サーフィンに直接影響を与える問題も多く、そうした課題への啓発活動も自分たちのベースになっていると感じます。
砂浜が減少し、ウミガメの産卵数が減っていることや、海洋生物の生息環境の変化など、さまざまな問題が現れています。
こうした環境問題への対応には、地元での連携が何より大切だと思います。
海岸工事などが行われる際には、県から地元コミュニティへ事前に相談するようお願いをしてきた背景があり、地域で良い関係性を築くことができるよう努めてくださった地元の皆さんのおかげで今があります。
先代たちが築いてきたものをしっかりと引き継ぎ、さらに良い形にしていくことが私たちの世代の使命だと考えています。
また、サーフィンが地域に良い影響を与えるという根拠を得たくて、大学・大学院で学んだという背景もあります。
私の周りにはサーフィンの可能性に期待して活動しているサーファーが多く、私自身の行動や姿勢を通してサーフィンの魅力を伝えて行きたいと思っています。
初めて会うサーファーが自分であれば、その人にとっての“サーファー像”が私になるわけですから、誠実でありたいという気持ちを常に持っています。
これから取り組みたいことや、伝えたいメッセージがあればお願いします
改めて、「サーフ」から「オーシャン」へ。
もともと海から恩恵を受けていると感じている方は多いと思いますが、パタゴニアが「サーフ」から「オーシャン」へとコンセプトを広げたことで、より広い視野で活動する方々が増えていくと期待しています。
その流れの中で、パタゴニアとともに探求し、行動する人が増えていってほしいと思います。
ぜひ皆さんにも、これまで以上に「オーシャン」を愛し、関わっていってほしいです。
「オーシャン」という言葉が持つ意味
最後に、あなたにとって「オーシャン」とはどんな存在ですか?
海は、家族や友人のような身近で大切な存在であり、私の全ての活動の原動力の源です。
海で過ごした経験を振り返ると、競技者を経験した自分にとって、海はまるで「道場」のような場所でもありました。
どんなコンディションでも練習を重ね、海を通して自分の限界を知り、その先を感じることができた、多くのことを学ばせてもらった場所です。
そして、海はただ厳しいだけではありません。
海の中にいると包み込まれるような安心感があり、いい波に乗れた瞬間には自分を肯定できるような感覚がある、海にいることでしか得られない、特別な感情がたくさんあります。
だからこそ、私にとって海は「家族」であり、「良い生き方を示してくれる存在」です。
私は、常に社会に対して、そして自分に対して挑戦したいという思いがあります。
それは決して楽な道ではなく、時にしんどく、茨の道だとわかっています。
でも、それでも挑戦したいのは、次の世代のためです。
次の世代に夢や希望を「見せられる」存在でありたいと、心から思います。
パタゴニア 大阪・中之島
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↓photo by 波伝説



















