
前回、サーフボードには
・浮力
・揚力
という二つの力が働いているという話をしました。
浮力はボードの容積によって生まれる静的な力。
それに対して揚力は、水流によって生まれる動的な力です。
そして実は、この「動的である」ということが、サーフボードを面白くも難しくもしているのです。
揚力は速度の二乗で増える
揚力には大きな特徴があります。
それは、速度が上がるほど急激に増えるということです。
航空力学では、揚力はおおよそ速度の二乗に比例するとされています。
つまり、
時速20kmで発生する揚力を1とすると、
時速40kmでは約4倍、
時速60kmでは約9倍になります。
サーフボードも基本的には同じです。
少しスピードが上がっただけでも、ボードが受ける揚力は大きく変化します。
波が変わればボードも変わる
ここで問題が出てきます。
サーフィンではボードの速度を一定に保つことができません。
小波と頭オーバーの波では速度がまったく違います。
同じ波でも、
・テイクオフ直後
・ボトムターン中
・カットバック中
では速度が変わります。
つまり揚力も常に変化しています。
ボードは浮き上がろうとする
速度が上がると揚力が増えます。
するとボードは水の中に沈み込まなくなり、水面近くを軽く走るようになります。
これは一見良いことのように思えます。
実際、
・抵抗が減る
・スピードが出る
・軽く感じる
というメリットがあります。
しかし同時に別の現象も起こります。
接水面積が減る
速度が上がると揚力が増えます。
サーファーの体重そのものは変わりません。
ですが、その重さを支える方法が変わります。
止まっている時は主に浮力によって支えられていますが、スピードが出ると揚力がその一部を受け持つようになります。
するとボードは水の中に深く沈む必要がなくなり、水を押しのける量も少なくなります。
その結果、水と接している面積が減っていくのです。
接水面積が減ると抵抗は減ります。
だから速くなります。
しかし接水面積は、実は「グリップ」でもあります。
タイヤで考えると分かりやすいでしょう。
路面との接地面積が減れば速く転がりますが、コントロールは難しくなります。
サーフボードも同じです。
速いボードが難しい理由
上級者向けの高性能ボードに乗ったとき、「速いけど難しい」と感じることがあります。
これは単にボードが小さいからではありません。
揚力が強く発生し、
接水面積が減り、
水とのつながりが薄くなるからです。
ボードは速くなりますが、
同時にシビアになります。
ほんの少し体重移動が遅れただけでラインを外し、少し踏み込み過ぎるとレールが抜ける。
これは揚力によって生まれる宿命とも言えます。
揚力は制御が難しい
さらに厄介なのは、浮力はほぼ一定なのに対して、揚力は常に変化することです。
・波のサイズ
・波のパワー
・サーファーの体重
・立つ位置
・ターンの角度
・ボードの傾き
これらすべてによって揚力は変化します。
つまり揚力は、シェイパーが完全にコントロールできる力ではありません。
できるのは、
「どんな条件で、どんな揚力が発生しやすいか」
を設計することだけです。
最終的には波とサーファーが完成させる力なのです。
ボード設計とは揚力との付き合い方
サーフボード設計の歴史は、ある意味で揚力との戦いだったと言えるかもしれません。
もっと揚力を増やせば速くなる。
しかし増やしすぎれば不安定になる。
もっと接水面積を減らせば軽くなる。
しかし減らしすぎればコントロールできなくなる。
シェイパーはそのバランスを探し続けています。
なぜ年齢とともにボードが変わるのか
若い頃は、多少シビアでも揚力の強いボードが魅力的に感じます。
・速く
・軽く
反応が鋭いからです。
しかし年齢を重ねると、
・少し接水感があり
・少し安定し
・少し余裕のあるボード
が心地よくなってきます。
それは技術が落ちたからではありません。
揚力だけではなく、浮力や安定性とのバランスを楽しめるようになるからです。
本当に良いボードとは何か
サーフボードの性能は、単純に揚力が大きければ良いわけではありません。
揚力は速度の二乗で増加し、波やサーファーの動きによって常に変化します。
そして揚力が増えるほど接水面積は減り、スピードは増しますが、そのぶんコントロールはシビアになります。
だから本当に優れたサーフボードとは、単純に速いボードではなく、必要な揚力を発生させながら、必要な接水感も残しているボードなのだと思います。
・速さだけでもない。
・安定性だけでもない。
その両方を、乗り手や波の条件に合わせて高い次元で両立させること。
それが優れたサーフボードの条件です。
シェイパーの仕事とは、単に浮力を配置することではありません。
波の中で刻々と変化する揚力と接水感、そのバランスをどう作るかをデザインすることなのです。
だからサーフボード選びは、単純なリッター数やサイズ選びでは終わりません。
どんなボードにも得意な領域があり、万能なボードは存在しません。
どんな揚力を求め、どんな接水感を求めるのか。
そのバランスを探していくことが、自分に合った一本に出会う近道なのだと思います。
ogm shape 公式サイト
ブログページ:なぜ速いボードほど難しくなるのか
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