KYのウラナミ『タンレン』

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防災士。上級救命技能認定。『波伝説カー』と共に海から海へ… 。勤続20年を越え、その移動距離は月迄の380,000kmを2往復目に突入しています!! これからもリアルな海の情報をお届けできるよう、安全運転で頑張ります。

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今年の秋は波がありました。

それも、台風による“良い波”が——。

台風スウェルの良いところは、遠く離れた場所からもしっかりとしたサイズのうねりを届けてくれること。

そしてセット間隔が長いため、ジャンクにならずに大きな波を楽しめることです。

そんな日がしばらく続きました。

しかし日を追うごとに、うねりはどんどん力を増していきます。

いつの間にか海の中の人数は減り、午前中は賑わっていたラインナップも、次第にセットに乗ると戻るのが大変なハードコンディションに……。

沖には数人だけ。

お互いに程よく距離をとり、ほとんどの場合、誰も競い合うことはなくパドルすらしない。

そしてセットはダブル近く。

緊張と平穏が同居する時間——。

私は頭半ほどの切れた良い波を掴み、誰もいない斜面を思い切り滑りました。

満足のいくところまで。

そしてプルアウト。

「あれ!? やってしまったか……? 戻るのが大変かも!」

そう、皆こうして一人、また一人と海から上がっていったのです。

沖はガラガラになっていました。

私もこのタイミングで上がるべきか—— ?

でも、その日の私はなぜか沖へ戻ることを選びました。

駐車場にはまだたくさんのギャラリー。

見栄を張るわけではありませんが、多くの人が上がった今こそ、この極上の波を少人数で分かち合えるチャンス。

「よし、頑張ろう! 日頃の腕立て伏せとプランクの成果を見せる時だ!」

勢いよくパドルを始め、「全然平気〜まだまだ〜」と自分を励ましながらふと周囲を見ると ——

愕然。

ひたすら横に流されていただけだったのです。

もちろん、一度上がってカレントを確認し直すのが正解だと分かっています。

でも私の頭に浮かんだのは、ただひとつの言葉。

「鍛錬(タンレン)」

このまま、このパワフルな波とカレントに立ち向かってみよう。

そう決めて、フルパドルと渾身のドルフィンスルー。

けれどあと一歩のところで、とんでもないセットが連続で入ってきます。

それでも諦めない。

30分以上パドルしてようやく沖に出た時には、元いたピークから数百メートルも離れていました。

そこから再び横移動。

超特大のセットが割れる中、約45分後、やっと元の場所へ。

そこには主人がいて、

「ずっといなかったから上がったのかと思ったよ!」

と言われ、私は息を切らしながら「すごく大変だったんだ〜」と答えました。

主人 「そうそう、さっき言っておこうと思ったんだけど……」

と、その時です。

私のポジションめがけて、まさにピンポイントで、美しい斜面を携えた特大セットがやってきました。

「それ乗ったらまた……!」と主人。

 

—— 時すでに遅し。

ヘトヘトなはずの手足が勝手に動き、その波をキャッチしてしまったのです。

分厚くて速く、面はクリーンでパワフル。

テイクオフは成功。

しっかりとレールを入れて、風を感じる。

技を入れるような余裕はなく、ただ転ばないように大切に滑るだけ。

それでも、気持ち良く長い斜面を走り抜け、最後はまるでエアーのようなプルアウト。

 

「うわ〜!また、やってしまった!!」

でも、悔いはありません。

あの「鍛錬」の末に掴んだ、特大のご褒美なのですから。

もちろん、もう沖に向かう体力は残っていませんでした。

あとで主人に聞いたところ、「セットはラストの一本に乗ったほうがいいよって言いかけた時、もう板を返して乗って行っちゃった」とのこと。

 

その数時間後、海はほぼクローズ。

頑張って沖に向かって本当によかった。

あんな素晴らしい波に乗ることができて、心からよかった。

年齢を重ねた自分にとって、何よりの自信になりました。

 

「衰え」に屈せず、「鍛錬」あるのみ。

気持ちが弱くなっても、小さな努力を重ねていけば、何度でも自信を取り戻せる。

 

—— そう、何度でも、きっと。

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