Black Friday on Maui
感謝祭の翌日に訪れた感謝と興奮に満ちた1日
#1 ジョーズでのブラックフライデー
23−24年の冬はエルニーニョということもあって、ハワイではみんながビッグウェーブを期待していた。
「前回のエルニーニョでは22回ペアヒがブレイクして、ミッドシーズンは一週間ぶっ通しでジョーズまで通っていた時もあったくらい。その年に自分はビッグウェーブのブレイクスルーがあった、だから今年は記録更新で22回以上乗れる日があるといいな」とは誰よりもジョーズの波をありとあらゆる道具で乗りまくるカイ・レニーの言葉。
予報ではそこまで大きくならないかもしれない、そのうえ風も入りそうとのことで通常のエピックジョーズデーほどには他の場所からのサーファーは来ていなかった。
オアフに残り、ワイメアやオアフのアウターリーフを攻めるという人も。
そんな中でも確実に割れるとわかっていたメンバーは暗いうちからハーバーに集合、船やジェットスキーに乗り込み、夜明けとともに1時間近くかかるジョーズまで荒れた海の中を出発して行った。
特に風が強くなるだろうと予想されていたので、パドルで乗りたいメンバーは朝一番しか狙えないと、暗いうちからスタンバイ。
朝日がのぼり、ジョーズの波に光が当たり始めた。
そこに割れていたのは予想以上にパワーのあるかなりのサイズ、そして休みなくコンスタントにやってくるビッグウェーブ。
10月26日に一度ブレイクしたジョーズだが、ここまでのサイズではなく、これ一年に数回しか来ないレベルの大きさで、予想を遥かに超えるサイズだった。
難しいコンディションの中パドルサーファーたちがチャージ。
そう簡単にはテイクオフできない様子を見て、実際この波がどれだけ大きくて早いかがよくわかる。
スタンドアップで出ていたゼイン・シュワイツアーがその日最初の一本めにテイクオフ、スタンドアップのボードでエアドロップに近い形で無理矢理フェイスにレールを入れ込み、何本かメイク。
巻かれ方も半端ないものがあったが、彼も少年の頃からここで乗っているレギュラーメンバーの一人。
レギュラーパドルサーフィンでテイクオフを決めたのは地元のアルビー・レイヤー、タイラー・ラロンド、ノースに住みながらもジョーズが割れる時には必ずマウイにいるジョーズベテランのトレバー・カールソン、本当にごく少数のみ。
なんとか乗ろうと頑張る中、なかなか乗れずにいるうちに風はどんどん上がってくる。ラインナップにいたパドルサーファーは10人くらいだろうか、なんとか一本でも乗れると皆諦めて船に戻って行く。
そんな中パドルサーファーの隙間を縫うようにカイ・レニーがトウインを始めた。
彼だけはどんなに遠くから見ててもカイ・レニーだとわかるスピードと動きをするくらい、一人だけ違うレベルに達していた。
みんながそんなの無理とやらずにいる間に、彼は2年間トレーニングを続けて2年間の差がついている。
彼に追いつこうと思ったら彼以上に頑張って2年くらいやらないと追いつかないだろう。まあ、彼のやってることをやろうと思ってるサーファーは一握りもいないとは思うが。
あまりに風が強く波のフェイスがボコボコな上にテイクオフはエアードロップ、そんなコンディションにさすがの頑強なパドルサーファーたちも一人二人と船に戻って行った。
そして次はトウインセッションのスタート。
パドル狙いでやってきていたイーライ・オルソン、イアン・ウォルシュなどもトウインで何本もいい波に乗った。
マウイでは、パドルだけに固執することなくコンディションに合わせて風が吹いたら風のスポーツ、波が大きすぎたりフェイスがバンピーならトウインとなんでもやるのがスタンダード。
サイズが予想よりあったので、ジョーズビギナーはそれほど出てこなかった。パドルでもいい波に乗ったオースティン・カラマなどもトウインボードに乗り換えて出てきた。
10時ごろになるとすでに沖の海面は真っ白になるくらい風が強くなってきた。
サーファーの中には、ジェットでハーバーに戻る人も、それと入れ替わるようにウインドサーファーチームが何組も現れた。
日本からの石井兄弟はここ一年ほどトウインやセーフティー、レスキューの仕方、され方についていろいろ教えてもらっていたペアヒフーイチームの船で朝5時から海へ。まだトウインも数回しかしていないのでまさか波に乗らせてもらえないだろうと思っていたら、コーチのダニエルは二人ならできると判断したらしく、三本ずつ乗せてもらい、かなり大きな波を経験できた。
そしてその後、ずっと海の様子を観察。
風が強くなってきて誰よりも先に出てきたウインドサーファーがこの石井兄弟だった。
初めてのジョーズだというのに、勇気があるなあとフヨフヨ浮かびながら沖に向かう二人を見守っているこっちがドキドキするくらい、波は大きい。まずは小さめの波に安全な位置から乗り、様子を見ながら少しずつ大きな波をキャッチ、彼らのアプローチ、そしてライディングはさすが世界のトップクラスで戦ってるだけのスキルを持つ選手だけあって、とても計算され尽くしたスマートなライディングだった。
日本人として心から誇らしいライディング、そしてその後話を聞いてもまだまだ余力を感じさせ、今回の経験は単なるスタート地点でしかないことを実感させてくれ、これからが楽しみな存在だ。
今回のブラックフライデーのジョーズセッションは、まさにマウイならではという雰囲気だった。
パドルサーファー、スタンドアップサーファー、フォイルサーファー、トウイン、ウインドサーフィン、カイトサーフィンとありとあらゆるマリンスポーツが同じ波を共有し、お互いをリスペクトし、譲り合いながら、その特別な場所にいてこのビッグウェーブに乗れる幸運を噛み締め、喜びあっている空気が素晴らしかった。
このレベルになるとみんなお互いの動きをしっかり見極め、誰の波かも理解し、そこにドロップすることもほとんどない。
本当のマスター、トップ中のトップだけが集まるとこの緊迫感が最高潮の場所でもアロハと高揚に満ちたポジティブエネルギーが崖の上で見ている私たちにまで伝わってくる。
この日初めてジョーズの波を体験した石井兄弟については、次の何章かで詳しく語るつもりだが、彼らが時間と労力をかけて準備してきたことはマウイのウォーターマンたちはちゃんと見て知っており、そんな彼らが堂々としたライディングでデビューしたことを心から祝い、讃えてくれた。
Good job You are one of us !
といったコメントが、たくさんの一緒にジョーズでの1日を過ごしたライダーたちから寄せられたことでもみんなが評価したパフォーマンスだったことがわかる。
まだまだ冬はこれから、最初のビッグウェーブでギアやライディングの反省点改良点もたくさん見つかった。
WSL・ビッグウェーブの大会Peahi challengeもウェイティング期間に入った。
エルニーニョシーズン、どれだけ素晴らしいパフォーマンスが生まれるのか大いに期待したい。